今も尚語り継がれているヘレン・ケラー女史の演説内容です

親愛なるライオンズご夫妻の皆さん!

皆さんは「好機」ということを、ある移り気な婦人になぞらえた言い伝えを、お聞きになったことがあると存じます。その婦人は、各戸の扉を唯一度だけしか叩かず、もし叩いた扉がすぐ開かれないと、どんどん行ってしまって、帰っては来ないのです。だが、そういったことは、よくあることです。愛らしくて手に入れたくてならないご婦人は、決して待ってはくれないでしょう。(笑声)戸外へ出向いて行って、ひっつかまえなくてはなりません、私こそ、皆さんにとって、その「好機」なのです。私は皆さん方の扉を叩いて、取り上げて下さればよいがと願っているのです。先程の言い伝えは、幾人かの美しい「好機」たちが、各自、同じ扉に現われた時、皆さんがどうすべきかを語っているのではありません。皆さんは一番気に入った一人を選ばねばならないでしょう。どうかこの私を取り上げて下さることを願っております。(拍手)この会場では、私は一番若いですが、私のこの提案は、奉仕としてはこの上なく好機に満ち満ちたものです。

米国盲人福祉財団は、設立後四年になったばかりです、それは盲人にとって、緊急にこれだけは必要という域から脱皮したものでしたが、しかもそれは視力のない者たち自身の力によって生み出されたものでした。それは広がりにおいても、重要さにおいても、国家的であると同時に国際的でもあるのです。それはこれまで到達した私たちの主題に関する、最善で最も進んだ考えを代表するものです。その目的は、盲人たちの経済価値を増大することや、まともな活動の税びを与えることによって、彼等が何処にいても、もっとやり甲斐のある人生を送れるようにすることです。

若し今、皆さんが突然、盲目になったとしたなら、どんな気がするかを想像してみて下さい。皆さんが仕事も自立もなくなり、日中なのに夜中のように蹟づいて、手さぐりをしている自分自身を、頭の中に描いてみて下さい。その暗黒の世界の中で、もし一人の友人が皆さんの手をとって、「私と一緒にいらっしゃい。そうしたら、あなたが眼の見えた頃によくやっていた幾つかのことを、どうすればよいか教えて上げましょう」と云ってくれたとするなら、皆さんはどんなにか嬉しいことでしょう。正に親切な友とも云うべき米国盲人福祉財団は、もし眼の見える人々が必要な支援を与えて下さるなら、この国の全ての盲人たちのためのものになろうとしています。

皆さんは、他の人の指字で何気なく云われた一寸した言葉を通して、別の人の心から届いた一条の光が、私の心の暗黒にどのように差し込み、私が自分自身を見つけ、世界を発見し、神様を見出したかを、お聴き下さったと思います。それは私の恩師が私を理解し、私を捕えている暗く、沈黙の拘束を打ち破り、私が自分自身のためだけでなく、他の人のためにも働くことが出来ることを教えて下さったからです。私たちが金より以上のものを望むよう配慮されています。届ける人の心情や関心のない贈物は空しいものです。もし皆さんが配慮して下さって、私たちがこの偉大な国の人民に注意を喚起することが出来るなら、盲人たちは本当に盲目にうち勝つでしょう。

私があなた方ライオンズの皆さんに持参した好機とは、米国盲人福祉財団の働きを助成して、スポンサーとなっていただくことです。どうか私を援助して、予防の施されない視力障害者もなく、無学な聴力、視力の障害児もなく、手助けもされない盲目男女もいないような時代が、一日でも早く来るようにして下さらないでしょうか?私はライオンズの皆さんに訴えます。視力があり、聞く力をお持ちの皆さん方は、強く勇敢で親切であります。この暗黒を無くする運動における、盲人たちの騎士に、自らなっていただけないでしょうか?

ご静聴、有難うございます。(全員起立して、拍手鳴り止まず)
(加計ライオンズクラブ・訳)

(附記)この記念すべき演説が終ると、ニューマン会長はこの素晴らしいメッセージに賛同したが、それに呼応したように、次の二つの動議が議決された。

  1. ヘレン・ケラー女史はライオンズ国際協会の名誉ある会員であることを宣言する。
  2. ケラー女史の先生をライオンズ国際協会の副名誉会員として認めること。

この動議が採択されると、ケラー女史は云った、『私は幸せです。そしてライオンと呼ばれるに似わしい人間であることを、誇りに思います』

1925.7.30 於 オハイオ州シーダーポイント
ライオンズ国際協会第9回年次大会会議録より